ハンバーグと課長

「彼はさ、棒にタッチしがちなんだよ」

セクハラ気味な社員について、課長はそう言い放った。

 

ガストで日替わりランチのハンバーグ&コロッケを食べていたときのことだった。

後ろの席では主婦4、5人でのママ友会が繰り広げられ、目の前のおじさまは質のよさそうなスーツを着て、素敵な緑の靴下をちらりと見せて座っていた。

 

その間で。

平和なガストの真ん中で、棒にタッチだなんて話をしているのか、この課長は。

丸い顔で、にこにこと笑いながら、今もなお「あいつはほんとになあ」と言っている。真っ昼間から、なんてふしだらなんだ。セクハラ社員よりもっとセクハラじゃないのか。棒て!タッチって!

ハンバーグもコロッケも罪はないのに、丸い課長の顔を見ていると、なんだか味気なくなってしまった。

なんでこんなに丸いんだ。顔がこんなに丸い人間がいていいのか。

 

思えば課長とは、たくさんガストにいった。

癒し系で丸い顔の課長とのガストランチは、私にとってつらい業務の合間の、ほんのひとときの楽しみでもあった。

カフェラテとカプチーノの違いについて、薄荷の飴玉のおいしさについて、から揚げのおいしさについて。

食べ物の話をたくさんした。食べ物の話しかしてないのではないかというくらい、食べ物の話をたくさんした。ガストでジョイフルの話もたくさんした。来年の私の誕生日はロイヤルホストへ行こうねという話もした。ロイヤルホストは丸い顔の課長と私の夢だった。課長が引退するころ、この丸い顔を引き継ぐのは私だ。ハンバーグにそう決意していた。

 

それなのに。

そんなセクハラ発言をする人だなんて。

 

これは課長のためにも、私がいってあげなきゃいけない。

「課長、すごくえっちだと思います」

「だはは、そうかなあ?」

「棒にタッチだなんて、そんな」

「なに言ってんだよ、ボディタッチだよ!ボディタッチ!きみはほんとすぐそういう方向にもっていく」

 

今すぐミンチになってめちゃめちゃ丸いハンバーグになりたいと思った。